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第76話

「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。」 高校古典といったら、まず源氏物語。 紫式部が平安時代に書いた世界最古の長編物語。 川端康成もが、日本の最高の小説と評すほどの作品だ。 作品は、54巻からなり、政変はさらに2つに分けられ三部構成になっている。 第1部は、光源氏の誕生から栄華を極めていくまで。 授業でよく取り扱う、所謂『光る君の誕生』がここだ。 因みに、彼と関係を持った女性の数は12人。 少女から老女、庶民から貴族とストライクゾーンは広い。 もっと分かりやすく噛み砕けば、顔の良いクズの爆誕ってところか。 第2部は、その後の光源氏の晩年が描かれている。 授業ではほぼ取り扱わないが、あの愛欲に塗れた生活を送っていた光源氏のしあわせとは言い難い暗い晩年。 晩節を汚すとはこの事だ。 どんな人間も、こうなると暗示すると共に大切なものを見誤る事のないようにしないと、と思わされる。 第3部では、光源氏没後の子孫たちの模様が描かれている。 光源氏の子供は6人いたが、戸籍と種が一致するのは2人だけだった。 簡単に言えば、不倫相手の子供が2人。 もう2人は養女だ。 中には顔は光源氏にそっくりだが、エリート街道を進んだ子もいる。 ただ、栄華を極めた光源氏の子供達が甘い汁ばかりではないと想像出来るだろう。 蛙の子は蛙。 だけど、鳶だろうと上手に育てれば鷹にも負けない鳶が育つ。 そんな希望を見いだしだって良いんだ。 難しいことだけど、できない事ではない。 自分が変われたようにな。 視線だけでクラス内を見渡す。 そんな豊かな作品に触れる機会があったところで、生徒の大半は興味がなさそうだ。 日本語で書かれ日本語で読める海外語、と苦手意識をもつ生徒も少なくはない。 それでも、そのロマンを拾い上げてくれる生徒だっている。 だから、教師を続けようと思った。 「はじめより我はと思ひ上がり給へる御方方、めざましきものに、おとしめそねみ給ふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。」 教卓から動く事なく読み上げていく。 これも感染対策の1つだ。 けれど、音やリズムで覚える生徒もいる、また読めない漢字や読み方にルビをふる目的もあるので朗読はやめられない。 ただ、作品を読み上げた。 あの生徒のように拾い上げてくれる生徒がいるかもしれない。 ただ、ただロマンを説いていく。

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