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第80話

公務員の良いところは5日働けば休日が想定されている事だ。 教師なんて定時はユルユル、土日も部活指導やらなんやらで潰れるブラックな仕事だが、長岡の担当する文化部の休日は完全に休み。 軽く持ち帰った仕事を済ませ、ダラダラしつつ土曜の夕方を迎えた。 すっかり冷めたコーヒーを飲みきり、そのままボーッとテレビを眺める。 もうすぐ恋人がやってくるので、なにをするにもそれからだ。 コーヒーのおかわりも、動くのも。 呼び鈴の音が部屋に響くと、インターホンを確認することなく玄関ドアを開ける。 すぐに目当ての子が 「遥登。 こんにちは」 「こんにちは、正宗さん。 お邪魔します」 恋人の纏う、緩やかな空気に全身の力が抜けた。 何度見ても良い。 最高の癒しだ。 「待ってた」 「え、あの……お待たせ、しました。 アイス買って来たので食べませんか」 そういう意味で言った訳ではないが、勘違いが可愛いので訂正はしない。 コンビニに寄る5分10分は確かに離れがたくはあるが、それを駄目だと言うほど心は狭くない。 …はずだ。 それに、今、ちゃんと目の前にいる。 だから良い。 「ありがとな。 おやつに食うか」 「はいっ。 期間限定のもありますよ」 「マジか。 お、うまそ」 2人でエコバックの中を覗きながら笑い合う。 あぁ、しあわせだ。 たまんねぇ。 長岡は、そんな顔を隠さずにいる。 それが嬉しくて、三条は更にきゅっと口端を上げた。 ベタベタの溺愛具合はすっかり日常に溶け込んだ。 「レシート寄越せよ、学生」 「俺が買ったのを正宗さんに食べて欲しいんです」 「俺に養われとけ」 「……それは、狡いじゃないですか」

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