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第100話

本棚から何冊も引き抜いた文庫本をリュックに詰め、チャックを閉めた。 また積ん読が増えたのでどんどん持っていって欲しい。 けれど、本の材料は元々は木だ。 嵩が増せば重くなる。 節を縛ったのであまり関節には負担をかけたくないが正直なところだ。 けれど、緊縛された恋人はコロコロと表情を変えながら帰宅準備を整えていく。 「なぁ、大丈夫か? 重てぇだろ」 「大丈夫ですよ。 俺だって男ですから」 「男でもなんでも、俺の大切な恋人だ。 心配させろ」 三条の顔がみるみる内に赤くなった。 赤くなる要素がどこにあるかは分からないが、素直に頷くので良い子だとサラサラした髪の上澄みを撫でた。 「やっぱ紙袋にするか?」 「大丈夫ですよ。 そんなに入ってませんし。 ほら、持てます」 体力があるのも分かっているが、やっぱり素直に頷けない。 せめて、と思いリュックを手に取った。 「玄関まで持たせてくれ」 「ありがとうございます」 三条は、甲斐甲斐しいと思っている顔丸出しだ。 さっきの淫らさはどこにいったのか。 成長期ってのはこれだから。 大人な対応をしてくれる三条と短い廊下を歩いた。 スニーカーに足を入れる背中を見詰め、しっかりと履いたことを確認してから鞄を返した。 「気を付けろよ。 腰とか、本当に大丈夫か」 「はい。 大丈夫です。 部屋に着いたら連絡しますね」 ふにゃっと笑ってみせる恋人の頭をキャップの上から撫でる。 「安全運転な」 「はいっ」

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