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第109話

綾登の誕生日に作るケーキは決めている。 果物いっぱいのせて作れるように、お小遣いも貯めている。 綾登、兄ちゃんと続くので、最近の値上がりはキツい。 けど、美味しいって喜んで貰いたい。 あの顔が見たい。 気持ちだけは目一杯詰め込むんだ。 俺は、それが見たい。 将来の夢はぼんやりとだけど決まっている。 だけど、本当にその道で良いのか迷う時もある。 “そんな理由”なのか、“だからこそ”なのか。 笑顔が見たいとか、好きだとか、それだけで決めて良いのか分からない。 兄は、自分の進みたい道を決めた。 その為に、大学へと進み勉強している。 もう2年もせず夢を叶えるだろう。 それに、不安はないのか。 優登は読んでいた本から顔を上げ、ドアを見詰めた。 あの扉の向こうで兄は今日も勉強をしている。 学校に行けず悔しい思いをしているのに、なにも言わずいつもニコニコとしながら。 だけど、兄はストレスを受けていた。 身体に現れるほどの。 それは、辛くないのか。 そうしてまで叶えたいって自分は思えるのだろうか。 自分の夢に、そこまで向き合えるだろうか。 椅子の上で膝を抱え、じっと見詰める。 兄のようになれるだろうか。 なりたいと願うだけではなくて。 お菓子作ろ… 不安もイライラも、全部生地に混ぜ込んで焼けば良い。

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