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第106話

長岡の帰宅と共に一緒に過ごす時間を共有する。 「なんか、今日はやけに眠くて…。 夕方ずっと寝てたんです」 『へぇ? 珍しいな』 あの後また寝落ちてしまい、結局次男が返ってきてからも眠そうな目をしていたらしい。 それから晩ご飯をしっかりと食べ、おかわりもし、風呂に入って、今だ。 欠伸こそでないが、横になれば眠れそうではある。 春だからか? 『俺の子、孕んだか?』 「え、」 『すっげぇ奥に出したろ。 だから、妊娠したか?』 「お、俺はっ、男です…っ。 妊娠は……しませんよ…」 『知ってる。 ちんこ見てるし。 なんなら舐めてるし。 けど、男が絶対に孕まねぇなんて分かんねぇだろ。 真実は小説より奇なりって言うしな』 「でも……」 長岡はこういうことを大真面目に言う。 真顔で冗談を言う時より、ソワソワしてしまう。 「そうしたら……」 『親御さんに頭も下げる。 何度でもする』 「っ!」 『当たり前だろ。 生半可な気持ちじゃねぇよ』 「その顔で言われると、たまりません……」 前髪ごと両手で覆い隠した。 有り得ないと分かっていても、愛されている事実が嬉しい。 そして、それに照れていた。 手で顔を隠すが、長岡からは真っ赤になった耳が見えている。 『本気じゃなきゃ、指輪も贈らねぇよ』 「……俺も、ちゃんと…本気ですから」 『ん。 伝わってる。 愛されてんなぁって思うよ。 顔とか態度とか』 「……愛してます」 『顔見て言ってくんねぇの?』 「…………それは……時間を、ください」 それから長岡は本当に時間をくれたので、ドキドキするのを抑えながらきちんと口にすることが出来た。 その時の長岡の嬉しそうな表情に、またきちんと顔を見て伝えようと思った。

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