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第119話

「今日は、目一杯甘やかしてやる」 「いつもじゃないですか」 「いつもは甘やかしてねぇよ」 無意識であれなのか…? 本当に、根っからの誑しだ。 付き合う前は、ドライな付き合いをする人なのかなどとクラスメイトの話を耳にしていたが、実際はこうだ。 甘くて蕩けるような優しい付き合いをする。 猫可愛がりされている自覚もある。 ……少しだけサディストだけど。 「甘いですよ。 一緒にいなくても、俺に金を使わせないじゃないですか。 バスとか、買い物とか」 「んなの当たり前だろ。 ご両親が一所懸命仕事された金だろ。 そもそも、俺らの金は県民の税金だ。 県民に還元すんのは正しいだろ」 確かに、そう言われるとそうなのだが。 だけど、バイトだってしている。 甘えてばかりは嫌だ。 恋人は対等だと教えてくれたのは長岡なのに。 「俺だってバイトしてますし」 「就職用にとっとけ」 「正宗さんに貢ぎたいです…」 「貢ぐって…。 定年したら面倒みてもらうだから良いんだよ」 嬉しい未来の約束。 長岡は繋いだ手を掲げ、街灯で指輪を輝かせる。 こういうところが甘いんだ。 顔も甘いけど、自分に対する気持ちはとっても甘くて、いつもふにゃふにゃになる。 「だろ?」 「…はい」 「照れんなよ」 「だって、これからの…約束だから。 嬉しい、です」 「葬式も出してくれんだろ?」 それは…… 「ずっと一緒じゃないんですか…?」 「俺の墓参りしてくれよ」 「しますけど……ずっとが良いです」 「甘えただな。 じゃ、そん時は遥登も連れてこうかな」 「絶対ですよ」 「分かったよ。 絶対な」 「あ、今のは絶対じゃない反応です」 「ほんとよく分かるよな」 「ほら」 分かるようになった恋人の癖。 言い方や、視線のやり方。 それが当たり前になった今はこんなにも尊い。

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