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第132話

通話アプリを繋げたまま、恋人の自宅へ向かってって歩く。 その間も会話をするのだが、もう残り1分ほどとなると長岡は黙った。 「そろそろだろ」 『すみません…』 「良いよ。 その後、俺が一人占めすんだからな。 今だけ譲る」 スマホの隅に表示される時刻が、00:00を表すと、イヤホンから元気な声が聞こえてきた。 『兄ちゃん! 誕生日おめでとう!!』 『ありがとう』 『へへっ。 今年も俺が1番だ』 本当に可愛い兄弟だ。 聞いているだけで、仲の良さが伝わってくる。 こうして育ったんだと分かるだけでも嬉しい。 『誰と競ってんだよ』 『んー、まぁ、それもそうだけど。 けど、嬉しいし』 弟も三条に似て表情豊かなのだろう。 声色から、そう思う。 文化祭で会った時は小学生。 今は中学3年生。 はじめて三条と出会った頃に似ているのだろうか。 漸くそれを聞いていると、目的地まで到着した。 『じゃあ、また明日な。 早く風呂済ませろよ』 『分かった。 じゃ、おやすみ』 『おやすみー』 微かに戸締まりの音が聞こえてきた。 最近のイヤホンは高性能だ。 『正宗さん』 「かわらず可愛い弟だな」 『一応反抗期なんですけどね』 見上げている先でカーテンが開き、三条が顔を見せる。 軽く手を上げると、その顔はうんと綺麗な花を咲かせた。 そして、すぐに奥へと引っ込む。 マスクの中はもう隠しきれない笑みでいっぱいだ。 きっと、走ってくる。 ほら、足音が聴こえる。 「正宗さん…っ」 「誕生日おめでとう」 胸に飛び込んでくる細い身体を抱き締めた。

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