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第136話
「どうせ、帰ったら風呂なんだろ。
使ってみるか」
「じゃあ…」
箱から取り出し、少し眺めてからプシュッと服の中へと吹き掛けた。
嗅ぎ慣れた柑橘のにおいがふわふわと車内に拡がる。
「正宗さんのにおいです!」
「香水のにおいな。
でも、遥登から、そのにおいするの良いな」
「へへっ。
俺から正宗さんのにおいがしますね!」
その顔は、本当に嬉しそう。
マスクをしていては、においは薄い。
それは、長岡本人も常々思っていたことだ。
あの清潔なにおいが薄い。
薄すぎる。
かといって、マスクを外し万が一があれば三条は自分自身を責め、病むだろう。
そんな目に見えることをするつもりはない。
なら、自身の欲も満たせ三条も喜ぶ物…と考えついたのが、香水だ。
年齢性別問わず使える物で良かったと思ったのははじめてだ。
香水なんて学生時代になんとなく買ったもの。
だけど、それでこんな笑顔が見られるんだから。
「あ、これ、正宗さんの服に吹き掛けたらえっちくないですか?」
「えっちなのは遥登だろ」
「変な使い方はしませんよ…。
大切に使います」
「なくなったら、また買ってやるから気にせず使え。
だから、覚えろ。
どこにいても、このにおいで俺を思い出してくれ」
三条は足の上に香水瓶を置くと、手を握ってきた。
「はい。
でも、思い出す、なんて言葉を使わない程度には正宗さんのこと考えちゃってます」
ふにゃっと笑うその顔に、今すぐキスが出来たらどんなに良いだろう。
出来ないことに悔しさはあるが、嘆くより目の前の現実の方をみていたい。
だって、そうだろ。
「じゃ、この鯉のぼりのケーキも食え。
鯉のぼり見たら俺思い出せよ」
「これは、半分こしましょうよ。
その方が美味しいです」
キラキラ輝く恋人の方が美しい。
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