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第138話

「じゃあ、気を付けて帰れよ」 「すぐそこですよ」 いつもの自宅前の道路の角まで来てくれた長岡と、最後の押し問答。 今日だけは特別だ、としっかりと手を繋ぎながら。 付き合いたての高校生か。 付き合ってから、もう5度目の誕生日だというのに。 「それでも、気を付けてくれ。 良い子だから分かるよな」 「21の男に言うことではないと思いますけど…」 まるで保育園児に言い聞かせるみたいに言うから笑ってしまう。 「俺にとっては、いくつになっても大切な恋人だよ。 忘れんな」 「その顔で、甘いことを言われるとたまりませんね」 「お返事は?」 「はい」 返事はしたが、どちらも手を離さない。 足もだ。 離れがたい。 楽しい時間ほどすぐに過ぎていき、離れるのが嫌になる。 長岡も三条も、それに足を捕られていた。 「風呂、まだなんだろ」 「……はい」 「風呂入ったら、俺のにおいなくなんだろ。 だから、また使ってくれ」 「はい」 「ほんとに服にかけても良いし。 さっき交換したやつ、俺のにおい残ってると思うしな」 車内で朝まで着ていた部屋着を渡され驚いた顔をしていた。 いつもは、交換と称しお互いの物を自宅へと持ち帰っていたが、今日はなにも言わずに持ってきた。 まだ誕生日を一緒に過ごせる時間は短いが、せめて寂しくないように。 我が儘を言わないこの子の身体が傷付かないように。 「……あの、」 「うん?」 「沢山、ありがとうございます。 服にもかけちゃいます。 で…その……、」 ソワソワする三条と視線を合わせると、握る手に力が入った。 「帰る前に、抱き付いても…良いですか」 「当たり前だろ。 抱き締めてやる」 1歩近付いてきた細い身体を抱き締める。 ぎゅぅっと力を込めて。 「誕生日おめでとう、遥登」

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