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第141話

自分のふとんなのに長岡のにおいがする。 「へへっ」 『どうしたよ』 「寝るのが勿体ないくらい、しあわせです」 香水とファブリックミストを混ぜた室内は長岡の部屋によく似ている。 服からも、良いにおいがする。 けれど、違う。 長岡の隣が1番、生きていると思うんだ。 なにも考えずに息が出来て、安心して、笑って、生を実感する。 生まれて良かったと思える。 今は、直接その隣で眠れないけど、会いに来てくれた。 一緒にケーキを食べ、プレゼントを貰い、自分の為に時間を使ってくれた。 そんな大切な人と共に過ごせる日々はかけがえのない宝物だ。 誕生日ばかりが特別でない。 「やっぱり、正宗さんが一番です」 『ん。 そうか』 「はい。 だから、すごくしあわせです」 『もっとしあわせにしてやるから、待っててくれ』 「もっとですか?」 『もっとな』 「今以上に?」 『あぁ。 今以上に』 「溶けちゃいます」 既にふとんに溶けそうな三条は、もっと甘やかされたら溶けちゃうと笑う。 穏やかな笑み。 2人だけの会話。 家族の証拠が三条の指を彩る。 2人だけが知る、新しい家族。 他人には分からない。 だけど、それで良い。 しあわせなんて人と比べるものではない。 『俺の1番も遥登だ』 「嬉しいです」 『嬉しいか。 俺も、嬉しいよ』 長岡も嬉しい。 それが、三条をなにより喜ばせた。

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