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第148話

「美味いな」 「はいっ。 美味しいです!」 後部座席に並んでケーキを食べながら、にこやかな横顔を頭に焼き付ける。 何年経っても覚えていられるように。 まだまだ沢山のこれからを共に過ごすだろう。 その増えていく思い出に埋もれないように。 埋めてしまうのは勿体ない。 どんなに小さなことでも、そんなことはしたくない。 「お菓子まで、ありがとうございます。 大切に食べます」 「弟とも食え。 いつも遥登を一人占めしてるからな。 こっそり賄賂渡しとかねぇと」 先程、ケーキを食べる前にレジでもらったおしぼりで手を拭いた。 だから、少しだけ。 指輪の嵌まる手を握った。 「正宗さん…?」 「ちょっとは恋人らしいこともしねぇと。 マンネリはこえぇからな」 「マンネリなんて…。 いつも、ドキドキしてますよ」 握っていた手が動いた。 自らの意思ではない。 三条の意思で、だ。 「伝わりますか…?」 ドキドキと早鐘を打つ胸が、好きだと伝えてくれる。 「ほんとだ。 すげぇドキドキしてる」 「だって、好きな人ですから」 「俺のこと?」 「他に誰がいるんですか…」 キスしたい。 困ったように笑うその口を、自分のものと重ねたい。 折角の誕生日なのに、そんな祝い方も出来ない。 「抱き締めても良いか?」 「え、嬉しいですけど…。 でも、大丈夫ですか…?」 「誕生日だからな。 21歳の遥登も抱きてぇ」 「言い方…」 ケーキを脇に通る置き、そっと抱き締めた。 昨日と同じように細い身体。 だけど、1歳年を重ねた恋人。 変わらない体温も好きだが、成長する本人も大好きだ。 頬に髪が辺り、それが揺れた。 どうやら無意識にマーキングをされているみたいだ。 可愛いから黙っておこう。 「愛してるよ」 「俺も、愛してます。 あとで、録音したいのでもう1回言ってくれますか」 「ちゃっかりしてんな」 漸く会って祝えた誕生日。 その日を笑って過ごせて、本当に良かった。

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