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第152話

イヤホンをさしているから耳が溶けてしまいそうだ。 低くて落ち着いた声だが、教室内によく通る声だ。 そこに甘さと色気が混じると耳がしあわせを通り越して、熱々のホットケーキの上にのせたバターみたいに溶けてしまう。 そして、ジワァ…と身に染み込むんだ。 夜、期待…… 言葉の意味なんて考えなくなって分かる。 小さく頭を上下させてから服を直す。 『あ、待て。 首にかけてんの見せてくれ』 首にかけているもの。 ネックレスチェーンに引っ掛かった指輪だ。 腹を隠し、チェーンを指をかける。 すっかり体温に馴染んだそれがカメラの前に表れると、長岡は満足な顔をした。 三条は、もらった指輪を見る長岡の眼差しが好きだった。 優しくて、愛おしいものを見る目。 自分だけの特別。 学校の誰も、きっとご両親だって、柏や蓬だって見ることの出来ない姿。 『やっぱ似合うな。 俺のって感じもする』 「嬉しいです」 『バレてねぇ?』 「はい。 チェーンは見えちゃってますけど、指輪は大丈夫です」 『そうか。 まだ2人だけの秘密か』 「なんか、正宗さんが言うといやらしいです…」 『なんでだよ』 「日頃の発言…?」 長岡はカラッと笑った。 『まぁ、それは遥登の受け取り方だな』 「俺は別に…普通に受け取っている、はずです」 『年頃だもんな。 でも、そういうとこも好きだ』 「そんな、好きって言われると照れます…」 『もう照れてんだろ。 あー、早く夜になんねぇかな』

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