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第199話

「ただいま」 「おかーり」 「おかえり」 兄の声に弟達は廊下に顔を出した。 本来なら居残りで指導案を書くのだが、こんな時期なので早目に切り上げさせられた。 長岡は20時21時まで残った日もあったと言っていたが、今はそうは出来ないらしい。 指導教諭からは宿題ですと言われてしまった。 そのような理由で早く学校からは出たのだが、乗り換えの電車がなく、自宅に到着した頃には夏とはいえ空は暗くなってきている。 「はぅー」 そして、三男はトットッと小走りで兄に抱き付いた。 小さい身体で力は強い。 「お、元気だな。 ご飯食べた?」 「ん。 さみちかった」 「ごめんな。 待っててくれて、ありがとう」 やわらかな髪の毛をクシャクシャと撫でたいところだが、電車を利用したので手洗いうがいが先だ。 ジャケットも脱ぎたい。 革靴を脱ぐのに座ると今度は背中にべったりだ。 すごく可愛い。 「おちちかれ」 「ありがとう。 無事に1日乗り切れたよ」 「いーこね」 小さな手が後頭部を撫でた。 あぁ、やっぱり弟達は可愛い。 「ありがとな。 元気が増えた! 手洗ったら、綾登も撫でくりまわすぞ」 「へへぇ」 手洗いとうがいを済ませ、漸くジャケットを脱ぎ捨てる。 涼しい。 扇風機の風がしっとりとした身体を冷やしてくれるようだ。 小さな頭をグリグリと撫でながらソファ前に座る次男の隣へと腰を下ろした。 「遥登、お疲れ様。 ご飯食べる?」 「あー…、少しだけ寝転ばせて。 ご飯は自分で出来るから大丈夫だよ。 ありがとう」 「ねうの?」 「寝ないよ。 ごろんするだけ」 ネクタイを外し、首元のボタンを外す。 手首もだ。 ベルトは締め付けているというより、スラックスが落ちないようにする為の意味の方が大きいのでこのままでも苦しくない。 そのままゴロンの横になる。 「兄ちゃん、疲れてんの? 大丈夫?」 「大丈夫だよ。 元気、元気。 この1年ずっと家で座ってたから筋力落ちたっぽい」 教室で移動に歩くこももなく、トイレも比較的自由に行き、自宅内で簡潔ばかりの1年強。 筋力が落ちたと言われても頷ける。 そういう生活をしてきた自負がある。 あっちの教室。 こっちの教室。 授業中も細々と動く教師。 明らかに、この1年の自分より運動量があると思った。 寝転びつつもジャケットに手を伸ばしスマホを掴んだ。

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