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第203話

はじめての授業。 まだドキドキしている。 授業案も授業用ノートも何度も確認した。 何度も頭の中で繰り返し練習をした。 それでも、想像よりずっとずっと難しかった。 伝える為にも、細かく噛み砕き飲み込んだはずなのに、なんだか上手く伝えられない。 言葉を変えるのか。 言葉の強弱や、イントネーションをもっとかえられたのでは。 今になってあぁだこうだと思ってしまう。 出来ないことばかりが目につく。 悪いところばかりが頭に貼り付く。 溜め息を飲み込みながら、それらをすべてメモ帳な吐き出していく。 「三条先生、お昼ですよ。 休憩してください」 「はい。 ありがとうございます」 「しっかり休まないとバテますよ。 休憩時間は、しっかりと休憩してください」 指導教諭からも亀田からもそう言われてしまい、メモ帳を閉じた。 ボールペンと一緒にポケットを片付ける。 「沢山話して喉が乾いたでしょう。 これ、差し入れです」 指導教諭は、にっこりと笑いながら─半分をマスクが隠しているが─スポーツドリンクのペットボトルを手渡してくれた。 先ほど席を外すと言っていたが、玄関前の自動販売機で購入してきてくれたらしい。 まだしっかりと冷たいそれを握り締める。 「じゃあ、僕からも。 疲れた頭には糖分です。 キャラメル、好きですか」 コロンッと手のひらに転がったのはキャラメル。 長岡が分けてくれていた、甘いお菓子。 それを見た瞬間、恋人の顔が思い浮かんだ。 『出来ねぇことを理解すんのも大切だけど、出来たことを理解すんのも大切だ。 出来ることを伸ばせば出来ねぇことも一緒に伸びる。 出来ねぇことばっかに気をとられてたら、出来たことすら出来なくなる。 目誤んな。 最初はみんな完璧に出来ねぇんだ。 だから人間は人間らしい。 花丸やるから、遥登らしくしてこい』 大切なことは、胸にある。 忘れてはいけない。 見誤ってはいけない。 三条は気付かれないように息を吐いた。 そして、新鮮な空気を吸う。 「ありがとうございます。 お言葉に甘えて休憩いただきます」 「はい。 しっかり休んで午後も頑張りましょうね」

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