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第209話

長岡から借りた学習指導書を開くと、ラインが引かれている。 9年前の長岡もこの本を読んでいた。 同じように教育実習生として。 その線を指先でなぞる。 「正宗さん」 『ん? どうした』 「ちょっと見てもらいたいんですけど、画像送っても大丈夫ですか」 『任せとけ。 厳しぃく確認してやる』 「お願いします」 『ほんとマゾいな』 追い付けるなんて思っていない。 けれど、少しでもその背中に手を伸ばしたい。 その為の努力なら惜しまない。 足が縺れて転ぼうが、手を擦りむこうが、構わない。 長岡は、その傷を見て笑わないから。 『びっしり書いたな。 うん。 全体的に良いな。 具体的なことも書けてる』 「ありがとうございます」 『ぶっちゃけ、やってみて自分で気が付いた方が身にはなんだよな。 気付けなかったら終わりだけど、そんなんいくらでもサポートすっし。 だから、訂正するのもな。 いや、でもな、厳しくすっか』 長岡は優しい。 厳しくと言ったのに、沢山褒めてくれる。 手だって差し伸べてくれる。 『多分、この辺り突っ込まれると思う。 もう1歩踏み込んでみ。 要らないって言われたら削れば良いだけだ。 どこまでいって良いかって難しいよな』 「はい。 50分で纏めるって難しいです…」 『重要なところには多めに時間使うのは分かってても、その配分が難しいんだよな。 分かるよ。 今でも時々配分ミスる。 慣れてくれば感覚で乗り気んだけど、意識すると感覚狂うから困るよな』 付箋にメモし、そこに貼り付ける。 個人的に教えてもらうのはどうかとも思ったが、長岡が便利な物は使えば良いと教えてくれた。 七光りだって使えるのは持っている奴だけだろ。 不便が美学なんてことはねぇ、と。 日本人の美徳に足を掴まれる必要はない。 もちろん、指導教師から指導してもらうことを主にしつつ、長岡からも助言をもらう。 『ぶっちゃけ、教師になって分かったんだけどな、時間が余ったらプリント配りゃ良いんだよ。 時間が足りなきゃ課題だって言えば良いだけだし。 次回は回答して時間の調節が出来るしな』 「なるほど」 『だから、気負いすぎんな。 遥登らしくな』 「はい」

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