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第210話

また新たな1週間がはじまった。 指導教諭のクラスの生徒達の名前と顔は一致する。 今週は、目下に迫る体育祭準備の時にもう少し親しくなることを頑張りたい。 生徒の気持ちを忘れてはいないが、当時と今とでは現状が違う。 それを理解出来るようになりたい。 宿題の指導案を鞄に入れ、準備万端の三条は職員用の玄関の隅で靴を履き替えた。 そして、職員室を目指す。 「三条くーん」 自分の名を呼ぶ若い声に振り返ると、生徒が此方に手を振ってきた。 「おはようございます」 「三条くんって、ここの卒業生なんでしょ。 イケメンの先生いたの知ってる?」 男子生徒の言葉に、1人の教師が思い浮かんだ。 というか、いきなりだ。 挨拶に返事がない。 「俺のねぇちゃんもここの卒業生なんだけど、当時めちゃくちゃイケメンがいたって五月蝿かったの思い出したんだよね。 知らない?」 「誰のことかちょっと…」 こればかりは個人情報だ。 教師だって1人の人間。 自分のされて嫌なことは他人にもしない。 というか、相手の嫌そうなことはしたくない。 末っ子にも言っていることを、自分がしてしまうのは憚られる。 それに、その人は…。 「三条くん、大学3年だろ? ねぇちゃんが4年だから知ってると思うんだけど。 あいつのタイプってその程度なのか」 いや、すごく整った顔の教師がいた。 そりゃもう、なんで公務員をしているのかと思うくらいの。 顔でお金が貰えるほどだ。 「そっか。 あんがとね」 ばいばーいと手を振って教室へと入戻っていく背中を見送った。 「三条先生はもう人気者なんですね」 「亀田先生…っ。 おはようございます。 本日もよろしくお願いします」 「はい。 おはようございます。 今日も頑張りましょうね」 「はい」 背後をとられビクッと肩を跳ねさせた三条だが、すぐに頭を深く下げる。 その姿に亀田は丁寧で気持ちが良いですねと微笑んでくれた。 そして、他の生徒に捕まらないようにそっと誘導し職員室へと入室させてくれる。 長岡がすごい人だというだけあって、先回りが丁寧で気の回る人。 お手本にさせてもらおうと三条は持ち前の学習能力で頭に叩き込んでいく。

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