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第212話
授業が終わり指導教諭と共に準備室へと戻ってくると、涼しい風が迎え入れてくれた。
「三条先生、お疲れ様でした。
水分摂ったりして、少し休憩しててください。
熱中症には気を付けてください」
「はい。
ありがとうございます」
持参した水筒から麦茶を煽り、授業時間で流れ出た分を補う。
それでは足りずもう一口。
そうして息を吐き出してから、席を立った。
水分も新鮮な酸素もマスクをしているとそのどれもが恋しくなる。
「亀田先生、先程のお話ですがみせたいものってなんでしょうか」
「あぁ。
これです」
差し出されたのは数枚の写真。
だけど、そこに映る人に目を輝かせた。
「長岡先生です…!」
「はい。
赴任したての頃のです。
今の三条先生と2歳ほどしか変わりませんね」
今より─出会った頃より─少し若いその人は、まだどこかに幼さを残していてとてもグッとくる。
これは入学するより前だ。
出会うことすらなかった時の姿。
はじめて見た。
「長岡先生にも新人の頃があったんです。
勿論、僕にも。
だから、大丈夫ですよ」
気付かれている本心にドキッとした。
そんなに、分かりやすかっただろうか。
「……模擬授業の経験がなくて、そのまま実習だったので不安なんです。
その不安が見えてしまってたでしょうか」
「そんなことはないですよ。
けれど、三条先生は真面目ですから。
そう思うだろうなと思ったんです。
不安ですよね。
けど、逆に不安を感じる余裕があると思ってください。
いっぱいいっぱいになっていないんです。
不安と仲良くなれれば、その分だけ詰め込めます。
そうでしょう?」
亀田の言葉を噛み砕く。
しっかりと。
「これも、長岡先生、可愛いですね」
「はい。
亀田先生はお変わりありませんね」
「ふふ。
お世辞が上手ですね」
「お世辞じゃないですよ。
ずっとお若いです」
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