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第219話

帰宅の準備を整え生物準備室を訪れた。 漏れる灯りに、まだ相川が帰宅していないことを悟る。 コンコンっ 嵌め殺しの月明かり窓がガタガタと揺れるドアをノックした。 「はい。 どうぞ」 「失礼します。 三条です」 「三条くん」 昼の約束を果たしに来た三条の顔を見て、相川は嬉しそうにした。 本当に良くしてもらってばかりだ。 「お疲れ様でした。 授業はどうでしたか」 言いながらも着席を進めてくれ、お言葉に甘えた。 鞄を足元に置き腰掛けさせてもらう。 事務用の椅子より、ここのスプリングの壊れたソファの方が座っていて落ち着く。 「難しいです…。 まだまだ勉強不足だなって実感してばかりです」 「三条くんは本当に真面目ですね。 もっと出来たことを話して良いんですよ」 「いえ。 俺は授業の一貫として来てますけど、生徒さんにとっては大切な授業の時間なんです。 練習なんて烏滸がましくて、きちんと他の先生方と同じレベルのものを伝えないといけないんだと思うんです」 生徒達は─後輩達─生きた練習台ではない。 それは、絶対に忘れてはいけないことだ。 「本当に長岡先生に似てますね」 相川は心底そう思うという顔でポツリと溢した。 そのまま小さな冷凍庫からアイスを日本語取り出し、片方を手渡してくれる。 冷たくて熱が籠った身体が喜んでいる。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「どういたしまして。 こんな気温じゃ、気を付けていても熱中症になってしまいますよね。 でも、気を付けてください。 ジャケットも脱いで良いんですよ」 「はい。 ありがとうございます。 真夏でもジャケットを脱がなかった長岡先生ってすごいなって思うばかりです」 「長岡先生はいつもきちんとされてましたね。 ピシッとされていて、それがとてもよく似合っていました」 「分かります。 格好良いですよね」 そう。 憧れたあの背中はとても格好良い。 だけど、相川が言うのとは違うその姿もまたすごく格好良い。 「いただきます」 「はい。 どうぞ」

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