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第221話

実習中、最後の土日になってしまった。 週明けに研究授業についての授業案を見せる為にこの休日も自宅から出る予定はない。 土日は予定を入れるなと長岡に言われた理由が分かった。 他の用事より勉強と睡眠確保の為に時間を使いたい。 先を歩いた人の言葉には意味がある。 「古典の授業って、結局学習過程は現代語訳をするじゃないですか。 活用とかそういうのだって調べれば答えが出てきて、調べてもすぐに答えが出ないような意地悪な問題を混ぜたら良いのは分かるんですけど、なんか難しいです。 俺は、古典の作品の面白さにまずは触れて欲しくて…難しく捉えて欲しくないんです。 理想論、過ぎるんでしょうか」 『それで良いだろ。 訳をつくるなんて誰だって出来る。 そこから、もう1歩が大切なんだよ。 それを、遥登は面白さだと思うならその1歩を踏み出してみろ。 大丈夫。 俺の教え子だろ。 自信持て』 吉田は、古典を呪文だと言っていた。 読めるが理解出来ない文字。 だが、好きなゲームや漫画の用語なら理解出来る。 その“好き”に少しだけ近付けたい。 そう思うのは高望みし過ぎだろうか。 零れた種から発芽した花の美しさを知っているので、どうしてもその美しさを目指しみたいと思ってしまう。 人間はエゴばかりだ。 持ってないものを欲してしまう。 羨ましいと妬んでしまう。 その人だって努力をして手に入れたのかもしれないのに。 表面だけを見てはいけない。 その美しさには理由がある。 長岡だって、通った道だ。 例えばデコボコばかりの場所でも歩けば道になる。 大丈夫。 だって、俺は長岡先生の教え子だから。 「あの…現代語訳をグループごとにしてもらうのはありでしょうか。 訳にどの言葉を選択するか、どう捉えるかで沢山の意見が出ると思うんです。 固くなくて、例えば今っぽい訳も合わせたら楽しいかなって思うんですが…」 『お、良いな。 俺ならあり。 今っぽい訳ってのも面白そうだ。 今の言葉に変えたら、もっと身近に感じて貰えそうだしな』 「指導案、書いてみます。 あの、出来たら読んでもらえますか」 『勿論。 楽しみにしてる。 全部が終わったらご褒美やるから踏ん張ろうな』 「はいっ。 頑張りますっ」 面白そうだと言って貰えて少し安心した。 1度経験した人からの助言ほど有益なものはない。

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