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第230話

シャクシャクとスイカを噛み締め、その甘みを身体中に染み込ませる。 美味い。 最近見掛けることの多くなった黄色種は、以前からあるものよりうんと甘くて美味しい。 摘めたくて甘くて、しかも隣には大好きな子がいる。 それだけで、うんと良い日だと思える。 三条も、美味しそうな顔で食べていた。 「それにしても、スーツ姿良いな。 大人っぽい」 「あ、写真どうしますか?」 「あぁ。 今撮るか」 そうだ。 写真が欲しいと言ったんだった。 会えた喜びに忘れてしまっていた。 スマホに手を伸ばすと、三条は背筋を伸ばす。 「証明写真かよ」 「あ…、だって…」 眉を下げてふにゃっと笑う三条は、鞄に引っ掻けていたネクタイを手繰り寄せた。 ネクタイまでしてくれるなら、良いものが撮りたい。 そう。 良いものが。 手慣れた様子でネクタイを締めていく。 「慣れたもんだな」 「高校の時からですから。 入学式ぶりですけど、覚えてるものですね」 「記憶力良いしな。 んじゃ、今度、俺のも締めてもらおっかな」 「人の、結べますかね…。 練習しておきます」 「後ろからやれば出来るだろ。 俺は、それでも良いぞ」 「なんか格好が付かないと思うんですけど」 「んなことねぇよ。 おれが嬉しいし、遥登はいつでも格好良い」 そう言っている間にしっかりとネクタイを締め直した。 ピシッとした好青年。 人懐っこそうな笑顔がとてもよく似合う。 だけど、今は自分だけの恋人だ。

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