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第262話

万葉集巻6 1050 現つ神我ご大君の天の下八島の中に国はしも多くあれども里はしもさはにあれども山並の宜しき国と川なみの立ち合ふ里と山背の鹿脊山のまに宮柱太敷きまつり高知らす布当の宮は川近み瀬の音ぞ清き山近み鳥が音とよむ秋されば山もとどろにさ雄鹿は妻呼びとよめ春されば丘辺もしじに巌には花咲きををりあなおもしろ布当の原いと貴大宮所うべしこそ我ご大君は君がまに聞したまひてさす竹の大宮ここと定めけらしも 教科書を持ち、長岡はそれを読み上げた。 スッと背筋の伸びた教師の声を聞きながらルビをふっていた生徒達も顔を上げる頃。 そのタイミングを見て次の動きをする。 「咲き撓る。 とても美しい表現ですね。 意味は漢字から考えてみましょう」 長岡はチョークを手に取ると黒板にスラスラと文字を書いた。 「咲く、そして、撓る」 「あ、沢山咲いて枝が撓ってる」 「正解です。 沢山咲いている様子を表す言葉です。 他には咲き溢れるなんて言い換えも綺麗ですね」 頭を垂れる稲穂なんかも美しい。 稲の穂を頭に見立てて垂れると表現した。 それだけ人間に近いものの扱いなのだろう。 毎日の食卓に欠かせない主食。 そう考えると人間扱いも頷ける。 そして、そう表現する日本人の感性が好きだ。 それと同時に、三条ならどう表現するのか気になる。 あの子の感性は豊かで色鮮やかだ。 どんな色の世界なのか。 どんなにおいで、音の世界なのか見てみたい。 なれやしないことを本気で思ってしまう。

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