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第266話
三条から会いたいと言われたのは2日前のことだった。
『あの……、我が儘を言っても良いでしょうか』
「あぁ。
どうした?」
『でも…、やっぱり…』
口にしたは良いものの、いまだ迷っているのかそんなことを言う。
すごく三条らしい状態だ。
画面の向こうで渋い顔をしたり、此方を見たと思ったら逸らされたり。
最初の頃は遠慮ばかりでこんな姿が当たり前だった。
懐かしい。
「遠慮されると寂しいなぁ」
『……』
「甘えられてぇなぁ」
『…………あの、……ご迷惑でなければ明後日会いたいです』
「ん。会いに行く」
本当に“そんな”ことだ。
だけど、そんなこと、とは口にしない。
三条は迷っていたのだから。
安堵したような顔をした恋人は、ふにゃっと表情を和らげた。
それにしても、会いたいのは自分だけだと思っているのか。
寂しいぞ。
『ありがとうございます…』
「誕生日、祝ってくれんだろ」
『はいっ』
「俺が会いてぇからな。
誕生日に遥登に会わねぇでどうすんだよ」
『俺が行く…のも、良いかなって』
「深夜は危ねぇ。
俺が行く。
いつもの時間に、いつもの場所な」
ということが。
誕生日だし、期待しても良いだろう。
会えるだけで十分な誕生日プレゼントだ。
神社へと入ろうとするその背中に声がかかる。
「正宗さんっ」
「こんばんは。
ほら、走ると転ぶぞ」
「平気ですよ。
いくつだと思ってるんですか…」
「21」
「転ぶような年齢ではないです…」
本当に分かってない。
「恋人を心配出来るのは特権だろ」
「っ!」
ビックリしたような顔は次の瞬間には綻び、最高の顔を見せてくれる。
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