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第269話
自然と伸びる腕が、細い身体を抱き締めた。
「いつでも考えてる。
今なにしてんだろうとか、飯食ったかとか。
泣いてねぇかとか」
「泣きませんよ…」
「ほんとかよ」
心は傍にある。
だけど、心では涙は拭えない。
優しいこの子を1人で泣かせてしまう。
それが、なによりも嫌だ。
なんの為に付き合っているんだ。
悲しいことも嬉しいことも分け合いたい。
しあわせにしたい。
泣いているなら、その涙を拭いたい。
恋人なら、そう思うだろ。
だけど、それは三条もそう思っているらしい。
近くにいたい。
傍が良い。
それは現実的ではない。
感染症の有無がなくとも、長岡には仕事があり出来ないことだから。
だから、せめて、を贈ってくれた。
その気持ちがなにより嬉しい。
「本気ですよ。
あの、予定送りましょうか?」
「それも良いな。
オナったらそれも教えてくれよ」
「え、」
「予定だろ」
「予定というか、突発的なものじゃ…」
「寂しいなぁ」
「う゛……ん…。
正宗さんも、教えてくれるなら…」
「任せとけよ」
後頭部を撫でると、襟足が湿っている。
暑かったから。
人の汗なんて綺麗なものではない。
それでも、舐めたいと思うのはそれが三条だから。
好きだから。
身体を離すと三条は顔を真っ赤にしていて、それがまた愛おしい。
好きになったのは、そういう子だ。
「ケーキ食うか」
「はい」
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