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第277話

9月になり、突然教授から呼び出しを食らった。 品行方正な三条は呼び出しを受けたこともなく、不安なまま自家用車で大学へとやって来た。 弟も目を丸くしながら、呼び出し…?兄ちゃんが?と言っていたが、なにかやらかした記憶もない─そもそも学校に登校していないのでやらかすもなにもない。 本当に久し振りの学校に、少しだけ胸がドキドキする。 コンコンコンッ 「三条です。 先生、いらっしゃいますか」 返事が返ってきたのでドアを開けると専攻している日本古典文学科の教授が入室を促した。 「呼び出して申し訳ないね。 さ、掛けてください」 「失礼します」 久し振りに足を踏み入れた教授室は、またいくらか汚れていた。 埃っぽく図書館に似たにおいがするがマスクを着用している今はよく分からない。 換気もしてくれている。 充分に気を遣われていると分かる。 けれど、学生のいない学校に教師が通勤する理由を探してしまう。 高齢の教諭達も自宅からオンラインの方が良いのでは、と。 それに、久し振りに訪れた大学はなにも変わっておらず、それが逆に気持ち悪い。 人だけがいないんだ。 ゲームの世界のようで、だけど、野良猫や鳥が園内を歩いているのがやけにリアルに見える。 「お茶……、はあれですよね。 座ってください。 早速ですが、今日来てもらった理由をお話ししますね」

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