277 / 729
第278話
夕日が差し込む部屋の中は真っ赤だ。
ベランダからぼーっと赤い空を眺め、先程の事を考えていた。
自分の道は自分の満足のいく選択で決めたい。
これは、自分の生きる道なのだから。
それに…
ふと聴こえてきた施錠の解除される音に廊下へと出た。
「正宗さん、おかえりなさい」
「ただいま」
革靴を脱ぎながら頭に触れようとした長岡は、その手を引っ込めた。
ウイルスが気になるのだろう。
だから、三条はそっとスーツの端に触れた。
「お待ちしてました」
「やべぇ、ニヤける…」
「会えて嬉しいです」
「そりゃ、俺の方だ」
大学の帰り、少しだけ会えないかと連絡をしたのは夕方のこと。
放課後であろう時刻に返信がきて、そのまま長岡の部屋に直接来た。
好きな本を読んでも良い、テレビも、冷蔵庫も開けて中身を減らして良い。
次々と送られてくるメッセージに少しだけ気持ちが軽くなった。
過保護と言うより先回りが早い人。
だから、なにかあったのだろうと理解はされているはずだ。
「遥登、背中になら抱き付いて良いぞ。
手ぇ洗ったり麦茶飲んでる間だけどな」
その優しさに甘えさせてもらう。
ともだちにシェアしよう!