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第280話

「簡単に作るから、飯食ってけ」 冷凍室を漁りながら長岡はそう言った。 急にお邪魔しただけでも迷惑だろうに、食事まで…と三条は遠慮する。 しかし、そこで折れる長岡でもない。 扱いはお手の物だ。 「でも…」 「ここで食っても、ご家族と晩飯食えんだろ?」 「それは…、はい…」 「食費気にしてんのか? 修学旅行の積み立て返ってきたから気にすんな」 冷凍野菜を取り出し、その手でレトルトのトマトソースを漁り乾麺を三条に手渡した。 「好きだろ」 確かに、長岡の作ってくれるパスタは美味しい。 野菜を足してくれるので食べ堪えもある。 それに、なにより長岡と食事が出来る。 大好きな人とのご飯はなにより美味しい。 「好きです」 「少なく盛るから、食ってくれ。 食欲ねぇか?」 「いえ。 食べたいです」 不安だと思っていた気持ちは消え去っていた。 沢山悩んで良い。 その言葉が、背中を擦ってくれる。 それだけ、かもしれない。 だけど、三条にとっては“それだけ”ではない。 背中にくっ付いた。 あったかくて大きくて、汗のにおいがする。 「ありがとうございます」 「相談ならいつでも乗るから」 「はい」 「お湯沸くまで甘えてろ。 俺が嬉しい」 「はい。 ありがとうございます」

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