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第281話
両親にも院へと誘われたことを告げると、沢山悩んで良いんだよと言われた。
遥登の生きる道は、遥登が決めるの。
だって。
やっぱり、度胸のある両親だ。
自分の経験からものを見ない。
本当に有り難いばかりだ。
「考えてみる。
けど、多分揺らがないと思う」
「うん。
きっと、どんなに真剣に悩んでも選ばなかった方を考えるから、遥登が選んだ方が正しいんだよ」
「お金の心配だけはしなくて良いからね。
お父さん、案外持ってるのよ。
通帳見る?」
「生々しいからやめとく…。
けど、ありがとう」
「遥登の親だからね」
迷っても良い。
そんな環境が許されるのは有り難い。
もう少しだけ、考える。
時分の歩きたい道を。
「ご飯、食べておいで。
美月ちゃんの作ってくれたご飯、今日も美味しかったよ」
「うん。
じゃあ、食べてくる」
穏やかに頷く2人と分かれ、晩ご飯を食べにリビングへと顔を出すと心配そうな弟がいた。
いつもは強火でいるのに珍しい。
「大丈夫…?」
「うん。
大学院に誘われただけだから、なんにもないよ。
悪いことのしようもねぇだろ」
「大学院に?」
長岡や両親と話をしたことで、本当に背負うものが軽くなった。
軽くなった分、腹が減った。
なのでご飯が更に美味しいだろう。
「行くの?」
「まだ分かんねぇ。
つもりはないけど、少しだけ考える時間もらったから悩むつもり」
「そっか」
「猶予ってやつ?」
「そ。
人生の夏休みに、猶予もらった」
「エグ…」
「でも、考えさせてもらっているだけ有り難い」
「無理すんなよ」
「なよぉ!」
小さな頭がピョコッとベビーゲートの向こうで跳ねた。
いないと思ったら、いつの間にかこんな近くにいた。
一体どこに隠れていたのか。
「うん。
ありがとう」
「ちーず、ちょーだいっ」
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