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第285話

なんとなくいても良いのだと思うのは、目の前の猫が大きな欠伸をしたから。 敵意を感じないのか呑気な子だ。 三条は、そぅっとスマホを手にすると何気なくカメラを向けた。 ナー 「どうしたの?」 ナー 「ごめん。 俺、猫の言葉はちょっと勉強してないんだ…」 言葉が通じないと分かったのだろうか。 今度は、ごろんと座った。 長岡から教えてもらった香箱座りという座り方だ。 攻撃に使う手を隠す座り方なので慣れていない子はあまりしないらしい。 こんなに信じてもらえて嬉しい。 「ゆっくりしていってね」 「誰と話てんの?」 その声に三毛猫は立ち上がった。 「あ…。 優登、猫だよ」 「猫っ。 ほんとだ。 可愛い」 塀から顔を覗かせた弟に気が付いた猫は、ととととっと家の奥へと消えていってしまった。 「あ……」 「またね。 優登、おかえり」 「ただいま。 俺の声、でかかったかな」 「びっくりしただけだろ。 ほら、家入りな」 なんだか悄気しいる優登は、とぼとぼと玄関を潜る。 「悄気るなよ。 きっとまた来てくれるよ」 「うん」 「綾登が帰ってきたらもっとびっくりするだろうし、な」 「兄ちゃん、やっぱりひとり寂しいだろ。 折角友達が来てくれてたのに、ごめん」 「そんなこと気にしなくて良いよ。 もうすぐ夏休みも終わるし、寂しくねぇって」 けれど、優しい気持ちが嬉しいと伝えると、優登は漸く下げていたまゆを戻した。

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