285 / 729

第286話

『ってことがありまして』 「へぇ。 誑しまくってんな」 人間も他の生き物も、その笑顔で誑し込む恋人。 まぁ、分かる。 この人の良さそうな顔と、きゅっと上がった口角。 穏やかそうな空気に素直そうな雰囲気。 どうみても良い子と称される見た目の子だ。 話し方も丁寧で声も自分のように低過ぎず若々しさがある。 現に、この子に堕とされた自分が言うのだから。 そりゃあ、猫だって寄ってくる。 あの子達は本能で人の良し悪しを判別出来るのだから。 『正宗さんだってよく野良の子にすり寄られてるじゃないですか…』 「なんだよ。 嫉妬?」 近くのサクラ猫と仲が良いからだろう。 どこで見ていて、飯をもらえると思い擦り付いてくれるだけ。 きっとそうだ。 『……俺の、恋人ですから』 なのに、三条はポツ…っと可愛らしい嫉妬を教えてくれた。 『正宗さん、他の生き物はそんなに反応しないのに、猫はするじゃないですか』 「猫には指輪、贈んねぇよ」 『…っ!』 「だろ」 首からかけている時に、服の上から触る癖。 それを含め、丸ごとの三条を愛している。 小便も飲めるし、アナルも舐められる。 自分の命より大切な子、そんなの世界に1人だけだ。 「伝わってねぇか?」 三条は、ブンブンっと首を降って否定した。 良かった。 伝わっているようだ。 あまり感情を伝えるのが得意ではない。 いつもつくった顔をしているから癖になっているのだろう。 それでも、三条は伝わっていると言ってくれる。 『伝わってますっ』 「ほんとか?」 『はいっ。 それは、本当です。 ただ、猫の可愛さには勝てません…』 「そんなことねぇよ。 やっぱり遥登が1番大切だ」 『はい…』 嫉妬をしているのも可愛いが、愛に溺れさせ照れさせるのも可愛い。 撫でくり回したいほどに。

ともだちにシェアしよう!