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第287話
どんなに暗くても、見間違うことのない背中。
ポケットからスマホを取り出すと、通話を繋げる。
『正宗さん?
どうかされたんですか?』
「後ろ向いてくれるか」
ゆっくりと振り返るその背中。
直ぐ様、視線が合い、嬉しそうに駆けてきた。
「正宗さんっ」
「悪い。
こっちから歩いてきたから、つい」
「いえ。
早く会えて嬉しいです。
けど、この道を通るの珍しいですね」
いつもなら反対側から神社へと行くのだが、今日は三条の自宅前を通っている。
リスキーなこの道を選ぶのは、窓越しからでも良いから会いたい時が殆どだ。
なので、三条のこの反応も頷ける。
けれど、今日はこの道を選んだのにも理由がある。
「うん。
まぁな」
「どこか、行きたい場所でもあるんですか?」
「うん。
遥登、デートしようぜ」
「デート…!」
パッと尻尾が立ち上がると、ブンブンっと揺れ出す。
犬みたいな全力の反応だ。
大学の夏休みも、もうすぐ終わる。
今日は、とことん三条を甘やかすと決めた日だ。
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