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第288話

「どうぞ」 小指を繋いで駐車場まで来ると三条を助手席へと促した。 「ありがとうございます」 「どういたしまして」 小さなことにも丁寧に頭を下げ、本当に育ちが良いと思う。 どんなことにも感謝をし、言葉にしてくれる。 つい、なぁなぁにしてしまいそうになることだってそうだ。 この子を見ているとご両親がどれほど愛情を注いだかが分かるようだ。 丁寧に育った。 そんな印象を受ける。 そして、自分もそうしてしまう。 丁寧に可愛がり甘やかす。 それが、この子の魅力。 運転席に乗り込むと三条の方へと身体をズラした。 まるでキスをするように。 顔が近付くと暗がりでも分かるほど真っ赤になる。 何度見ても良い顔だ。 「っ!!」 だけど、そのままシートベルトを引き、とめる。 カチッと音がしてから三条は漸くそれに気が付いた。 「あ……」 「期待した?」 「その顔で、そういうのは……駄目ですよ……」 「なんだそれ。 マスクで半分隠れてんだろ」 「隠れてたってすごいんですから…」 殺しきれない笑いが喉の奥から漏れていく。 いや、本当に申し訳ないのだが、素直な反応が可愛い。 やっぱり好きだと再認識するのは簡単だ。

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