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第290話
「いつもは塩か?」
「いつもも甘いです。
いつもが砂糖なら今日は蜂蜜くらい甘いです…」
「かわんねぇって」
おかしそうに笑う横顔にさえドキドキしてしまう。
なんだ。
初恋か?
初恋だけど。
それにしたってトキメキっぱなしだ。
赤信号で停まると、手を捕まれた。
こんなに暑いのにやっぱり自分の体温より低くて冷たい。
だけど、恋人の体温だとすぐに分かるもの。
「……へ、ぁ…」
「なんつぅ声……。
どこから出したんだよ」
「の、ど…」
「遥登って飽きねぇよな。
そういうとこも好き」
言葉っていつもストレートだし、今日も直球ストレートだ。
ストライクだ。
けど、空気が甘ったるい。
さっき言った通り、蜂蜜みたいに甘くてトロトロで、少しえっち。
歩行者用信号機が点滅すると、指輪に触れながら手が離れていった。
「また赤になったらな。
あ、触ってても良いぞ。
寧ろ嬉しい」
「……じゃあ、失礼します」
股をすりっと撫でた。
まさかそんなところを触れられとは思ってなかったのか、長岡にしては珍しくピクッと筋肉が動く。
「それは」
「お返しです…」
「覚えとけよ」
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