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第293話
「どうしたよ」
「んーん…。
なんでもないです」
大方、今日の空気の甘さに気が付いているのだろう。
此方をじっと見ていた三条は首を降る。
今日は、大切な子に接することしかしていないし、させていない。
三条との関係は家族も良いが、恋人や大切な人としても接していたい。
愛している特別な気持ちを伝えたいから。
だって、勿体ないだろ。
この気持ちをすべて届けないと。
ま、頭の良いこの子なら理解しているとは思うがな。
飲み物を飲もうとしてマスクを外した頬を指先で触れる。
「……やっぱり、今日の正宗さん、なんか…その…甘ったるい……」
「そうか?
普通だろ」
「違…います」
するりと頬から顎へと指を滑らせると、そのまま顎の下を擽る。
三条が好きな触れ方だ。
「ふ、へへ」
「ほら、いつもと同じ」
このまま言いくるめられるとも思ってはいないが、それでも気を逸らす手段はある。
コロコロと笑う三条には悪いが今日はそういう日だ。
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