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第326話

部屋のドアを、解錠もせずに開く。 「ただいま」 「おかえりなさい。 また、お邪魔してます」 すっかり寒くなった11月。 また三条は大学に呼び出された。 1ヶ月に1回の呼び出し内容は、院においで、というもの。 三条の人生を邪魔するつもりはないし、三条の悔いがないように決めて欲しい。 けれど、三条を欲している姿は少しばかり面白くない。 俺のだ。 俺の恋人。 俺の自慢の教え子。 その評価は嬉しくも思うが、俺のだ。 「嬉しいから気にすんな。 遥登と飯食えんだぞ」 「そう言っていただけると…」 「手ぇ洗ったら抱き締めさせてくれ」 「え、」 「駄目か?」 「いえっ。 あ、俺から抱き付いても…良いでしょうか…」 靴を片方脱いだだけの長岡は腕を拡げて見せた。 「手、洗ったらって…」 それでも、抱き付いてきてくれる小さな頭。 今は上がり框の分だけでかいが。 「でも来てくれんだ」 「正宗さんですから」 「ははっ。 俺で良かった」 「今日は、鮭の味噌漬けですよ」 「食う」 先程の独占欲はどんどん収まり、すっかり三条のペースだ。

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