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第327話
「ごちそうさま。
美味かった」
「良かったです」
まだ食事中の三条の隣でゆっくりとテレビを観る。
なんとも贅沢な時間だ。
なくなってから、この時間の愛おしさが前にも増した。
増したところで増えはしないが。
それでも、大切にするに越したことはない。
暫くすると隣からごちそうさまでしたと聴こえてきた。
皿は綺麗に空っぽ。
そんなことにも心が喜ぶ。
「洗い物は俺がするから座ってな」
「一緒にします」
任せれば自分が楽なのに、2人でやったら2人とも楽ですよなんて笑って行ってしまう子。
人のことばかりだ。
だから、三条のことは自分が見る。
あの時のように分からない距離ではないから。
肩の傷が治ったって、蕁麻疹の赤みが消えたって、だから良かったとは思えない。
そうさせてしまったこと。
そういう思いをさせてしまったこと。
三条の性格を知っていて、それを見れていなかったこと。
それは忘れてはいけないことだ。
「んじゃ、一緒にすっか」
「洗います?
拭きます?」
「洗う」
「じゃあ、俺が拭きます」
「お願いします」
「お任せください。
それと、今日は電車で来たので……デート、していただけますか」
「勿論。
じゃ、早く洗い物終わらせて、遠回りしようぜ」
この笑顔を守ることにいみがある。
三条にとっても、長岡にとっても。
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