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第328話
拭いた食器を棚に片付けていると後ろから抱き締められた。
「こっちは終わった」
「あと、これを片付けたら終わります」
「ゆっくりで良いぞ」
「でも…」
待たせるのは申し訳ない。
そう言おうと思ったのに、肩口に顔を埋められ動きを止めてしまう。
「遥登のにおいしかしねぇ。
最高だな」
「お疲れですか…?」
「ん?
まぁ仕事は疲れたけど、お疲れではねぇよ。
ただ、遥登だなぁって思って」
皿を一旦置き、腹に回される手に触れる。
水仕事をしてしっとりとしていて触れていて気持ちが良い。
けれど、指先が荒れているのもよく分かる。
生徒達の感染リスクを減らす為に、校内の色んな所を拭いているらしい。
机やドア、窓だけでなく、階段の手摺やロッカーの表面も。
アルコールでそうするから手がまた荒れている。
それに加えてチョークも手の油分がなくなっていく。
ハンドクリームじゃ補い切れないのか。
「あの……ギリギリまで部屋に居たいです」
「デートすんだろ」
「でも、車の中じゃ抱き締めてもらえませんから」
「欲のねぇやつ」
「ありますよ。
正宗さんを一人占めしたいんです」
「じゃ、なにもしねぇからベッドでゴロゴロすっか」
嬉しい誘いに頷くとくっ付いていた顔が離れた。
「じゃ、片付け終わり」
「え、この皿で終わりますから待ってください」
「だぁめ。
もう遥登とベッド行きたくてたまんねぇ」
「い、言い方…」
「事実だろ」
楽しそうな声に振りかえると行くぞと腕を引かれた。
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