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第346話
夕食のカレーを食べて弟とゴロゴロしていると、炬燵の上のスマホがメッセージを受け取った。
通知画面には恋人の名前。
『週末、少し時間くれないか』
短い文に了承を返すと、すぐに感謝の言葉が送られてきた。
デートを期待してしまう。
2人きりで過ごせる大切な時間。
淡い願いがジリジリと身を燻る。
夜のデートも勿論嬉しい。
手──正確には指だが──を繋げるし、くっ付いて歩いても暗闇が隠してくれる。
それに、自分が生まれ育った町に恋人がいると思うと景色がいつもとは違って見える。
だけど、昼間に会うのも好きだ。
あの綺麗な顔がよく見える。
茶けた髪が太陽光でキラキラ輝くのも良い。
それから、一緒に昼寝をするのも贅沢だ。
うんん。
本当は、一緒に同じ時間を過ごせるだけで良い。
隣で。
「はう、みあん」
「うん。
食べような」
「こえ!」
「甘いかな」
「あまいよ」
「はい、どうぞ」
「あっとます」
剥いてもらった蜜柑を食べた綾登は、顔をきゅっとさせた。
「ちゅっぱ」
2つの理由でふにゃふにゃ笑う三条の口にも酸っぱい蜜柑が入れられた。
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