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第348話
心地良い空気に三条はにこにこしながら窓の外を見たり、運転をしてくれている恋人を見たりと楽しんでいた。
見慣れた景色も長岡ならとびきりだ。
丸坊主になり、また伸びた田んぼ。
冷たい空気に逆らうように色を付ける庭木。
自転車に乗って出掛ける親子。
それすら、とても美しく思える。
長岡の愛車は、いつの間にかすっかり鮮やかになった山の方へと向かっていく。
「寒くねぇか?」
「正宗さんからマフラー借りてますから大丈夫です」
「腹減らねぇか?」
「大丈夫です。
正宗さんは減りましたか?」
「微妙なとこなんだよな。
昼にパン屋寄って、どっかで食おうぜ」
「っ!
はいっ!」
赤信号で停車したのを良いことに、前へと身を乗り出すと大きな手が頭を撫でた。
「デートだもんな」
「嬉しいです」
「俺も嬉しいよ」
信号の色が変わるまでの小さな触れ合い。
そんなことすら嬉しい。
シートに座り直し、穏やかな時間に身を任せる。
やっぱり、長岡の隣はかけがえのないものだ。
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