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第350話
「それでも、連れてきてくれてありがとうございます」
大好きな笑顔が咲き零れる。
一緒に桜が見たかったのは本当だ。
だけど、1番はこの笑顔。
なによりも意味のある笑顔が見たかったんだ。
去年は守る為と言いながら本当に守りたいものを見ていなかった。
大人の悪い癖だ。
耳心地の良い言葉に惑わされ、見失ってしまっていた。
だけど、それが間違いだったと知った瞬間、全ては自分のエゴでしかなく、更には守られていたことを知った。
強くて優しくて、男らしい三条。
自身の身体がストレス反応を出しても、自身の身体を無意識の内に傷付けても、ただじっと堪えていた。
厳しい寒さの先にあたたかな春がくることを知る、この花のように。
ただひたすらに。
今度こそ三条を守る。
だから、一緒の時間が必要だ。
三条にとっても。
自分にとっても。
それが、なりよりも最優先事項。
「春みたいに房がふわふわってしてませんけど、それがまた冬桜っぽくてエモいです」
「ははっ。
若いな」
「あ…、えもいわれぬ美しさです…」
「良いよ。
意味も通じる。
おじさんだって、エモいくらい分かる。
でも、先にパン屋に寄れば良かったな。
人もいねぇし、花見出来たな」
「花見も良いですけど……」
三条は辺りを見渡してからスス…っと隣にやって来ると、そっと手を重ねてきた。
あたたかな体温が冷える指をあたためてくれる。
「少しだけ…甘えます」
「たまんねぇな」
誰も来るなと願いながら、細い指を握り返す。
大好きだと伝わるように。
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