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第351話
四季を彩る植物はいつ見ても美しいが、狂ったものはまた一興。
これで雪でも降れば、2つの白を同時に楽しめる。
なんとも趣があって良い。
けれど、残念ながら今日はそれに耐えれる装備ではない。
三条もマフラーこそしているが、アウターは簡単なものだ。
寒さで骨まで冷えてしまう。
風邪なんかに犯されてたまるか。
「来年も見ような」
「はいっ」
それでも、動くことが出来なかった。
触れる手のあたたかさと春の喜びをこの季節に味わえることへの喜びで。
そんな時、ふと後ろに気配を感じ振り返ると、にぁあ、と可愛く鳴く生き物がいた。
「猫です」
「サクラっぽくねぇな。
野良か」
部屋の辺りを縄張りにするサクラ猫とは異なり、耳は切られていない。
ぶよっとした身体から食べ物には困ってなさそうだが、なんというかふてぶてしい顔の子だ。
これはこれで愛嬌があってとても可愛らしい。
そんな猫に三条は話し掛ける。
「見ちゃった?
秘密だよ」
スンッとした顔のままそこに座り、顔を洗いはじめる。
猫って生き物は、このマイペースさが良いんだ。
それにしても、今日の三条はどこか大胆だ。
手を繋いだままふわふわとした空気を纏っている。
声も嬉しそうに跳ねている。
なら、同じだけの花束を手渡したい。
「良いだろ。
俺のだぞ」
コツと頭をぶつけると、すぐ脇の耳が真っ赤になった。
「ほら、かわいーだろ」
「……、」
「秘密な」
顔を洗い終わった猫は、今度は欠伸をした。
猫会議で言い触らすんじゃねぇぞ。
俺のだからな。
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