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第352話

桜を見たり、野良猫を見たり、飛んできた鳥を見たりしている間にも、外気はどんどん2人の体温を下げていく。 触れている手の冷たさにに気が付いたのか三条は此方を見上げてきた。 「正宗さん、マフラー使ってください」 「俺は平気だから遥登が使ってろ。 風冷てぇだろ」 「でも、正宗さんが風邪を引いたら生徒さん達にも迷惑かけてしまいます…。 それに、指先も冷えてきてます」 「…そういうとこだぞ。 でも、冷えてきたのは確かだな。 車に戻るか」 “2人っきりになれるしな” マフラーを外し自分に巻こうとしてくる三条の動きを止めるには十分な言葉だ。 かぁぁっと赤くなる顔に満足そうなそれを返すと愛車へと戻っていく。 「バイバイ。 またね。 元気でいてね」 「じゃあな」 野良猫に挨拶も忘れずに。 引き返してすぐに、犬の散歩にやって来た女性と擦れ違った。 絶妙なタイミングであの場を離れられて良かった。 悴む指先を隠すようにポケットへと突っ込み、あることを思い出す。 先に三条を車内に入れてから自身も乗り込むと、それを後部座席の三条へと手渡した。 「忘れるところだった。 遥登、やるよ。 手ぇ貸してくれ」 三条の手のひらに落としたのは、どんぐりで作られたトロロ。 「可愛い! 正宗さんが作ってくれたんですか?」 「まぁな。 あ、ちゃんと茹でてあるから虫は大丈夫だと思う」 「器用ですね。 本当にいただいて良いんですか?」 「まだあんぞ」 次々と手のひらへと乗せられていく、大、中、小のトロロ達。 三条は目を輝かせながら 「帽子まで。 これ、一緒に拾ったのですか」 「そ。 弟も遊べんなら、分けてやりな」 「喜びます! 俺も部屋に飾ろう」 にこにこした顔でどんぐりを眺める可愛い恋人。 それを眺める長岡もまた、似た顔をしている。

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