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第354話
勿体なかったが、手の悴みが溶けるとパン屋へと移動した。
昼は避けたので人も多くなく、しかも焼き立てのタイミングで入店したらしくトングで掴むとふわふわサクサクが伝わってくる。
これは三条が喜びそうだ。
甘いのとしょっぱいの
それから、腹に溜まりそうなやつ
すっかり恋人の食の好みを覚えた長岡は、当たり前のように三条の好きな物を当てられる。
サクサクのクッキー生地が美味しいメロンパンや、層のサクサクがしあわせなクロワッサン。
それから、季節の物も好む。
果物のデニッシュやフルーツサンド。
惣菜物──サンドイッチにコッペパンサンドはがっつりの方が好き。
鶏肉とたまごのサンドイッチは、どこで購入してもほぼ100%大当たり。
あの細さでも食はしっかり男の量。
食わすのが楽しくて仕方がない。
駐車場に面した大きな窓から飲み物を買い終えた三条が戻ってきたのが見えた。
こうして分担して買い物をするのもお互い慣れたものだ。
「カレーパン、只今揚げたてです」
厨房から出てきた店員の手には揚げたて熱々のカレーパン。
スパイスの刺激的なにおいにつられそれもトレーにのせる。
いや、これは買うだろ。
衣はサックサク。
パンは熱々。
おまけにカレーだ。
三条が嫌いな訳がない。
店内をぐるりと回り選び終えると会計へ。
熱々の内に三条に食べさせたい。
ま、その子は熱いのが早く食べられないのだが。
それでも、美味しい物を美味しい時に食べさせたいと思う。
まるで両親のようだと三条は笑うが笑った顔が好きな長岡には嬉しいこと。
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