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第355話

「待たせた」 「いえ。 此方こそ、ありがとうございます」 後部座を伺いながら車内に乗り込むと、三条はにこにこした顔で出迎えてくれる。 小さなことだが、そういうことがとても嬉しい。 買ってきたパンの詰まった袋 「カレーパン揚げたてだってよ。 熱いから気を付けろ」 「ありがとうございますっ。 あっ、ついですね…」 三条は持ち手と底に手を添え丁寧に受けとる。 その際に熱い箇所が手に触れたらしく、手渡したそれをすぐに脚の上へと置いた。 それと同時にクリクリした目が驚いたように丸くなった。 そんな様子に日々のことを忘れてしまう。 嫌なこともめんどくさいことも、三条の笑顔の前では霞むばかり。 “三条”と共に過ごせていると理解出来るそれらがとても愛おしい。 例えどんなにちいさなことでもだ。 「大丈夫か? 揚がったばっかりだったからな。 火傷すんなよ」 「はい。 気を付けます」 「じゃ、少し移動して食うか」 流石に店の駐車場では申し訳ない。 おやつの時間になれば、また客が増えるはずだ。 その為にも駐車スペースを空けなければ。 ゆっくりと動き出した車内はカレーのスパイスのにおいと、まだほのかにあたたかい菓子パンの甘いにおいの混ざったにおいで満ちていく。 そして、背後からぐぅぅと腹の虫が鳴った。 あぁ、やっぱり愛おしい。

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