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第357話
ウェットティッシュを差し出すと、三条はありがとうございますと言いながら受け取った。
本当に、丁寧な子だ。
手を拭きながら、三条それを見る。
「遥登、もっかい拭けるか」
「はい?」
細い指を掬うと、すっかりそれが馴染んだ家族の証へと唇を寄せた。
会う前は首から外し指に付けてきてくれるのを長岡は知っている。
それが例え短い逢い引きでも。
三条らしい小さくて大きな愛情がとても嬉しい。
ちゅっと軽いリップ音が狭い車内に溶ける。
「……っ」
「ほら、拭け」
「でも…、間接…キスをしないと、勿体ないです…」
「間接キスは拭いてからすれば良いだろ。
えっち」
「えっち、じゃないですよ…。
だって……、したいでしょ」
三条は案外むっつりしたところがある。
まぁ、三条だって男だ。
えろいことに興味がない方がしんぱいにもなる。
それに、それが可愛いところなのだけど。
けれど、間接と言えどキスはキス。
細い手首を掴むと新しく引き抜いたウェットティッシュでソコを擦った。
「あ……、勿体ない…」
「ほら、ちゅーってしろ」
「んん」
唇へと押し付けると三条は、そんなことでは流されないぞとばかりの顔を見せた。
けれど、拭いたとはいえ同じ箇所へのキスにその顔は崩れていく。
いつものように、ふにゃぁとする頬の方が良く似合う。
「カレーパン冷めねぇ内に食うか」
「あ、流されたって思いましたね…」
「さぁ?」
「俺だって、顔の筋肉がもう少し賢かったら…」
「賢…って。
ははっ。
ほら、本当に冷めんぞ」
「いただきます…」
「どうぞ」
サクッと音をたてながら頬張られたカレーパンにまた三条の顔の筋肉がダラけた。
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