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第359話

「綾登、これあげる」 「あーとます」 「食べれないからな。 口に入れたら駄目だよ」 「あ、とろろ!」 どんぐりのトロロを見て綾登はとても喜んだ。 小さな手のひらで、そぅっと包んで母親に見せている。 「みーてぇー」 「可愛い。 どうしたの?」 恋人と深夜にデートをして拾い、それで作ってもらった。 なんて、言えやしない。 「うん。 友達からもらった。 弟にもどうぞって」 「器用なのね。 可愛い」 「ぱっ」 どんぐりの芽を出す踊りをはじめた綾登を見ながら手洗いを済ます。 少しの罪悪感はあるは、別れ際に長岡から言われたことなので気にしないように努める。 顔に出てしまったらいけない。 『あ、どんぐりのこと聞かれたら友達からもらったってことにしとけ。 別に関係なんて2人が解ってりゃ、他からどう思われようが見られようが関係ねぇよ』 背筋を伸ばしまっすぐに地面を踏み締める生き様が眩しい恋人。 普段は猫背で、ダラダラとベッドやソファの上で寝転んでいるが、生き様は正反対だ。 傷だらけになってもまっすぐに歩くから、頭が良いから、顔が良いから、楽勝なんだろと見られやすいが、決してそんなことはない。 破れたポケットから沢山の種が零れて、後ろに花を咲かせているだけ。 俺は、それをちゃんと知ることが出来た。 そんな幸福はない。 「俺もしよっかな。 んーっ」 「ぱっ!」 「ぱっ!」 「へっ、へへぇっ」

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