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第372話
三条が手のひらでコロコロとあったかいペットボトルを転がす。
「手袋使うか?」
「大丈夫です。
けど、ありがとうございます」
ほんの十数分人が居なかっただけで車内はすっかり冷えていた。
すぐに暖房を点けても、瞬間的にあたたまることもなく、冷えるのは事実。
けれど、三条は平気だと笑い飛ばす。
ケーキ屋で買ってきたホールのケーキを開けていると、いつもより冷たい手が自分に触れた。
リュックから取り出されるのはどう見てもプレゼント。
「正宗さん、クリスマスプレゼントです。
受け取ってくれますか?」
「こんなでかいの…」
長岡はその大きさになにか言おうとした口をすぐに閉じた。
そして、1つ息をする。
「ありがとうございます。
じゃ、俺からも。
どうぞ」
「ありがとうございます!」
「開けても良いか?」
「どうぞ。
俺も開けても良いですか?」
「ん。
開けてみ」
ケーキの前にプレゼント交換。
一旦箱を前の座席へと避難させる。
そして、早速開けてみると、落ち着いた色合いのふわふわの布が見えた。
「ブランケット…?
いや、でけぇな。
毛布か?」
「一緒に寝る時、正宗さん、俺の方にばっかりふとんかけてくれて背中とか心配だったので。
来年は使えるようになると良いなって希望も込めました」
希望。
込められたそれの大きさを反映したふわふわの布に愛おしさが込み上げる。
三条と一緒に寝るのが好きだ。
あたたかな子供体温と清潔なにおいに安心してよく眠れるんだ。
それだけではない。
言葉に言い表せない豊かな気持ちが込み上げる。
人々は、それを愛やしあわせと呼ぶのだろう。
「っ!
格好良い!」
有名ブランドのスニーカー。
別に、ブランドに拘った訳ではない。
ただ、軽くて三条に似合うデザインや色を吟味にしたらこれになっただけだ。
「弟との散歩の時とか、普段のコンビニとか、行くこと増えてきたろ。
だから、スニーカーにしてみた」
下を向いたって良いと思っている。
それが進むべき前方であるなら、尚更だ。
そんな時、自分は1人ではないと思って欲しい。
どんな時でも忘れないでいて欲しい。
地面を踏ん張るその足を守る靴。
それを、包みたかった。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。
沢山履いてくれ」
「勿体ないけど、履きます」
「あぁ。
俺も。
沢山、使おうな」
「はいっ」
「そうだ。
今から使おうぜ。
帰ったら洗濯するから汚すのとかも平気だろ」
三条の腕と自分のものがくっ付く距離まで詰め寄ると、ふわふわのそれをかけた。
「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい。
ってな」
そして、本心をのせ、有名な都々逸を1つ読んだ。
「鴉とも寝ましょう。
今は、夜ですから」
「そうだな。
邪魔はいねぇな。
けど、先にケーキ食おうぜ」
にこにこするこの顔を今年も見られた。
それが、ただただ嬉しい。
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