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第373話

「可愛い!」 チョコレートケーキの上に、同じくクリームで作られたクマの顔がにっこりと笑っている。 その周りには苺が並べられており、あまりの可愛さに同じ顔になる。 「可愛いだろ」 「どんな顔で買ったんですか」 「この顔のままだよ」 たまたま見掛けたというこの可愛らしいチョコレートケーキを即決で購入したらしいが、どうしてこれを選んだのか考えると嬉しい。 きっとそうだろうな。 そして、そうだと良いな。 そんな感情に頬の筋肉はゆるゆるだ。 「クリスマス当日だから高かったでしょうに」 「んなもん、もっと良いものもらえんだから安いもんだよ」 「もっと良いもの…?」 それはなにかと開こうとした口の前へとケーキが運ばれてきた。 ケーキの上でのクマの耳が欠けている。 「ほら、あーん」 「あ、いただきます…っ」 甘いチョコレート味のクリームに苺の酸味が口に広がる。 しかも、真ん丸のホールケーキにフォークを突き刺して恋人から食べさせてもらうなんて。 しあわせだ。 こんな、しあわせなことはない。 都会のキラキラしたイルミネーションを見るより、三条の心を弾ませる。 「美味しいです」 「良かったよ。 沢山食え」 「正宗さんも食べましょう」 「ん。 いただきます」 「あっ、間接は駄目ですよっ」 貴方がいればどこだって良い。

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