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第438話

(さっむ…) 寒い。 鼻の奥がツンとする。 マスクを上げていればそれなりに防寒になるのに、顎マスクをしているからだ。 冷える鼻をマフラーに埋める。 行儀悪く両手もポケットだ。 それでも、そちらの方が好都合。 2月の真ん中。 その月曜日。 それが今日。 「遥登」 自分の名前を呼ぶ声パッと顔を上げれば、大好きな人が手を振っている。 三条は、尻尾をブンッブンッと振りながらその人の元へと駆けた。 軽いのは足取りだけではない。 胸が弾む。 見慣れた景色が一気に輝く。 踏み締めた靴底さえ、とても跳ねた。 「こんばんはっ」 「こんばんは。 転ぶぞ」 例え転んでも長岡となら笑い話だ。 怪我をしても、思い出にする。 そうにこにこしながら言えば、綺麗に整えられた眉が下がった。 「ったく。 俺が心配なんだよ」 「へへ。 嬉しいです」 「心配されて嬉しいって…。 まぁ、良いか」 自然と絡まる小指を繋いで、バレンタインのデートへと夜に紛れる。

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