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第439話

「なにが良い?」 「じゃあ、これが良いです」 自動販売機から吐き出されるミルクティーを取り出し、しっかりと握り締める。 あたたかい。 悴む指先がほんの少し解ける。 長岡も同じように飲み物を購入した。 「んじゃ、車行こうか」 「はい」 ほどいた指を自然とまた絡め、寒い中を歩く。 そうして辿り着いたのはいつもの駐車場。 長岡ら愛車へ乗り込み、すぐさま暖房を付けてくれた。 車内があたたまる前にと、リュックの中から贈り物を取り出した。 「正宗さん、バレンタインのチョコレートです。 受け取ってもらえますか?」 「勿論。 ありがとうございます」 丁寧に両手で受け取ってもらえるそれは、いつもとかわらない物。 だけど、去年よりも多くの愛情が込められている。 長岡はそのチョコレートを一旦脇に置き、紙袋を取り出した。 それを、すっと差し出す 「俺からも。 受け取ってください」 「ありがとうございます!」 「開けて良いか?」 「どうぞ。 俺も開けますね」 ラッピングを解き、見せ合い笑う。 「これ、大好きです!」 「知ってる。 俺も、これすげぇ好き」 「良かったです」 沢山のものを奪われた2年だけど、奪われることのないものもある。 例えば、この笑顔。 「食っちゃお」 悪戯っぽく笑う長岡に頷き、三条もチョコレートを摘み上げた。

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