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第444話
あっという間に時間は過ぎていく。
勉強、勉強、勉強の間に3月になり、中学校の卒業式が執り行われた。
各家庭から2名までと縛りこそあれど、多くの人が集まる体育館。
去年よりずっと恵まれた日だ。
だけど、寒い。
寒いのに、なにを言っているか分からないジジイの話に眠くなってくる。
まったく誰を祝福しているのか。
今日の主役は卒業生とその保護者、担任だ。
お前じゃない。
欠伸を噛み殺しながら式を終える。
こんなことなら、受験勉強をしていた方が有意義だ。
退出の際に両親と目が合い微笑まれた。
素直になれない優登はそれになにも返しはしないが、この学校生活で多くの心配をかけたにも関わらずただにこにこと祝福してくれることに感謝した。
修学旅行も行けなかった。
体育祭も文化祭も規模を縮小。
休校だって長かった。
それでも、いつも守ってくれた両親。
あたたかい食事やふわふわのふとん、清潔な衣類を提供してくれ、反抗期でもかわらず愛情を注ぎまくってくれていた。
声にはしないけど、両親や兄が心を痛めていたことだって知っている。
今、自分に出来ることは、まっすぐに生きること。
そして、春に花を咲かせること。
そうしたら、家族がまた笑うから。
「一樹、教室行こうぜ」
「おう。
話長かったな。
ねっむいわ」
「分かる。
あれ、なんて言ってたんだ」
「さぁ?」
まだ素直にはなれないけど。
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